やぎさんのオリジナル泳法のすすめ

楽に、静かに、できれば速く、還暦すぎてのラクラク健康スイミング (円月泳法、鉤腕泳法、八の字泳法、招き猫泳法、らくらく2ビート背泳、やぎロール、イルカ泳ぎ等)

36. 2ビートのらくらく背泳ぎ (プルの補足)

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このブログで一番多く読まれているページは、05. 背泳編 2ビートのらくらく背泳ぎである。

私も、毎日、この泳ぎでゆっくり泳いでいる。25mを35秒、13ストロークくらいのペースである。このくらいであると、息も上がることなく、長く泳いでいられる。

この2ビートで泳ぐと、いくらでもストロークのピッチの間隔をコントロールできることは書いたとおりである。つまり、足首を交差し、前後に大きく伸びたままで、長くグライドしていれば良いからである。

しかし、これができるようになるためには、左右にぶれずに、真っ直ぐ進まなければならない。

そのために、私が推奨するのが、腕相撲のようなプルである。

これについても既に説明した通りなので、重複して説明するつもりはないが、これができているかどうかの確認の方法を付け加えておこう。

それは、非常に簡単な方法だ。

私の通うジムのプール使用ルールでは、コースを右側通行で泳ぐことが、決まっている。

それゆえ、背泳ぎでゆっくり泳いでいると、左腕の傍にコースロープが下方に流れていくのが目の端に見える。

そこで、このコースロープをちょっとだけ目安にしてみたい。

左の腕で、プルを始めるとき、つまり、肘を緩めキャッチに入ったときに、そのコースロープを軽く指にかけるつもりになるのだ。

そうして、ゆっくり、これを腕相撲プルで真っ直ぐ押し下げてゆくのだ。ちゃんと腕相撲プルができているれば、これを滑らかに、かつ、軽く、身体の軸がゆがむことなく、行うことができるはずだ。

ただし、これは、想定である。実際にやってみるについては、注意を受けると思うので、実際にかかってしまうかどうかについては、これは、自己責任でお願いしたいところだ。

こうした泳ぎでは、殆ど、ピッチの間隔は本当に自由である。それゆえ、キックについても、自由であって、律儀に2ビートを打っても良いし、変化をつけても、ドルフィンにしても、ビートを打たなくても何とかなるはずだ。

最近、左膝に痛みを感じることが、しばしばある。そんなときには、右足だけを打ったり、右足で2回打ったりして泳いでいるが、泳ぎかたに制限がないというのは、本当に楽で、気持ちが良いものである。

 

次の記事を読む 37. らくらく背泳ぎのローリングと姿勢

 

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35. クロールを自分に最適化する その2(速やかな左右転換)

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身体に合わせてクロールを最適化する その2

この記事は、前回記事(34. クロールを自分に最適化する その1(グライドとキャッチ)の続きである。

1. 楽に泳ぐことと、速く泳ぐことから

これまで、楽な泳ぎ方を追求してきた。

そこでは、個々人が、それぞれ多様な特性や個性を持っているのだから、楽な泳ぎ方も一様に存在するわけではないだろうとしてきた。

それゆえ、それぞれの個性に応じた泳ぎ方は、既存の方法に縛られる必要はなく、いくらでもあるのではないかと提起し、その方法を考え出して、このブログで例示してきた。特に、楽な泳ぎであれば、速くはないが、いくらでもあると。

しかし、一方で、32. 「速く泳ぐ方法」と「楽に泳ぐ方法」の相違 その2 」で、速く泳ぐことを目的とするならば、その方法は、一定の方向に収斂していくだろうということも述べた。

つまり、「速く泳ぐため」の姿勢は、身体の特徴に支障がなければ、その要件を満たす方法は、かなり一意に決まっていくだろうということである。

それというのも、遅く泳ぎたいという人は聞いたことがなく、普通、できることなら、楽に、速く泳ぎたいという人がほとんどだからである。かくいう私もその一人である。

しかし、問題なのは、速く泳ぐ方法が一定の方法や姿勢に収斂していくとしても、誰にとってもそれができるわけでもなければ、楽であるという保証も全くないからだ。

だから、ある程度速くしたいという場合は、今の自分の楽な泳ぎ方から、楽な範囲で、前に身体を伸ばしていき、お腹を締めていけばよい。

これまで、このブログで紹介してきた泳ぎ方から徐々に速くしたい場合でも、全く同じである。

まあ、最終的には、筋力がものを言うのだろうが、検討に値するのは、やはり、姿勢と、体幹の使い方だ。

特に、姿勢について、これが、楽にできるかどうかは、個々の身体の特徴に深く依存することになる。

2. もう少し速く泳ぐためのクロールの最適化

ゆっくり、楽に泳ぐ方法は結構書いていきた。しかし、もう少し速くしたいと考える私のような隠居じいさんが考えるならば、もう少し、工夫しなければならない。

既に書いたように、その形は一定の方向に近づくだろう。

しかし、筋力にも、柔軟性にも、限界があるのだから、やはり、自分の身体の特徴に合致した形を見つけなければならないと言える。さて、その形は、どんなものか?

ということで、前回の記事で、自分にとって最も抵抗の少ない姿勢とは、とうあるべきかを書いた。「イルカの姿勢」である。再掲すると次のとおり。

「顔は水底に向けたまま、なるべく身体を横に向けて、体全体は水平にまっすぐに保つ。片腕は、真っ直ぐに前方に伸ばし、できるだけ肩を前に出し大きく腋を空け、その肩を顎関節(顎の蝶番)あたりにあてる。反対に、もう一方の腕は水上に肘を高く挙げ、完全に脱力して前腕を頭のなるべく前に垂らすように肘を前方上に保つ。」

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前方に伸ばした腕は、肩を目一杯伸ばしているので、水の抵抗は少ない。ただし、真っ直ぐ前方に伸ばしていても、水平方向より深みを指しているのであれば、腕の上面に水の抵抗を受けるが、それは下肢を浮かす利点を持っている。

顎関節あたりを肩に付けるのは、腕を伸ばす方向を真っ直ぐに定位するためと、顔と腕の間に受ける水の抵抗をなるべく少なくするためである。

もう一方の水上の腕は、前方に体重をかけて下肢を浮かせ、後述するが、次の動作に備えて最も効果的な位置を保ち、リラックスする形をとっている。

体全体は水平に保たれて沈み、水面での造波抵抗を受けるのは肩のみとなっている。

以上である。

そして、自分の肩関節の柔軟性等の個人の特質により、特に前方に伸ばす腕の鉛直方向の角度やそれに伴うローリングの角度によって、イルカの姿勢がそれぞれに異なり、「自分のイルカの姿勢」があることを書いた。

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(1) より速く泳ぐには

さて、抵抗の少ない姿勢はこれで良いにしても、このままでは、当然、推進力がない。しかし、このイルカの姿勢を、できるだけ長く保つことが、効率的に進んでいくコツなのだということには、留意したほうが良い。

このことから、より効率的に泳ぐためには、イルカの姿勢の左右を、いかに速く切り替えるか大きな要素となることがわかる。

しかし、より速く泳ぐには、より、力強い推進力が必要となる。そのためには、ただ速く切り替えればよいというわけではなく、効率的な推進力をうることが同時に必要であり、当然ピッチ(ストロークのリズム)も速くしていかなければならない。

効率的なプルを実現する大きな要素が、キャッチである。これについては、前回の記事で書いた。

すなわち、前方に伸ばした腕の肘から先を、ふっと緩める。そうすることによって、前腕が水に押されて肘が曲がり、ゆるく弧を描いた前腕に周りの水が絡んでくる。これが、キャッチである。そして、身体は最大ローリング角から水底に向かうように戻り始める。同時に、キックする側である下の左足の膝を緩めてキックに備える。

ということである。

このキャッチの時点で、イルカの姿勢は崩れ始めている。

それゆえ、ここからは、速やかに左右の姿勢を転換しなければならない。

(2) 速やかな左右転換

今、あえて、「速やかに左右の姿勢を転換しなければならない」と書いた。

一般的には、「ローリングする」とか、「ストロークを開始する」とか書くのかもしれない。

しかし、私は、あえて、左右の姿勢転換と書くのが適切だと思っている。

それは、とりもなおさず、楽に進んでいく至福の時間はイルカの姿勢にあり、これの切り替えを効率的に行う動作にすぎないと思うからである。

それでは、この切り替え動作の順を追ってみることにしよう。左腕を前方に伸ばしたイルカの姿勢から始める。まずはキャッチに入る。

(a) 前方に伸ばした左腕の肘から先を、ふっと緩める。

こうすると、前腕が水に押されて肘が曲がり、ゆるく弧を描いた前腕に周りの水が絡んでくる。

肘の曲がる方向は、個人によっても若干異なるであろうし、自然に曲がる方向で良いと思う。

このキャッチで腕の周りにとらえた水を、なるべく壊さないようにまとめて後方に押し出すのだ。

身体は最大ローリング角から水底に向かうように戻り始める。同時に、キックする側である下の左足の膝を緩めてキックに備え る。

(b) リカバーの腕を頭近くから水中深くに突き込む

そこで、やおら、水上で前腕をだらっと下げ高く上げた右肘を、ゆっくり加速しながら伸ばし込んでいく。これは、緊張せずに行う。着水は、額の横である。それゆえ、手の甲が着水するときの角度は大きく、45度くらいになろう。

着水点から手の先を伸ばす方向は、鏡の前で確認したバンザイの方向であるが、その場所は、ローリング後の右肩が落ち着く位置からみて前方真っ直ぐの深みである。この深さは、各人のバンザイの姿勢、肩関節の柔軟性に依存することになる。

現実的には、水底の中央線を真下に見ながら、中央線の横(この場合は右)あたりを狙って、肩が顎関節にあたるところまで突き込むという感じであろうか。

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深さは、たとえば、肩関節が柔軟で、肩から真っ直ぐ腕を前方水平に伸ばせる人でも、最終的に落ち着く手首の位置は、水面から30cmくらいの深さになるはずだ。なぜなら、リカバリーに必要な角度をとり、沈んだ頭と肩の分によって、肩の位置は30cmくらい沈むはずだからである。

したがって、頭近くの水面から、45度で突きこんだ手を、真っ直ぐ最終目的の30〜40cmの前方深みに向かって、ズズドーンと伸ばしていくことになる。

この動作は、角度をもった右腕の上面が、前進速度と突き込む腕の速度が加算された速度で、前方に水を押していくことに他ならない。

そうすると、どうなるか?

急速に、左右転換が起こるのである。すなわち、右の前腕が水流の分力によって下方に押し下げられ、その結果、右肩が押し下げられるからである。

さて、その間に、キャッチを行った左腕はどうなるか?

右腕をこのように意識して突き伸ばせば、その相互作用として、これと入れ違いに、キャッチした左腕の肩(鎖骨)は自然に下がる。この動きがプルであるという意識は殆どなく、相互作用で左肩が下がっていくことによって、前腕が倒されたまま身体を巻くようにして自然に臍まで降りてくる

このときに意識すべきは、身体を丸太のように真っ直ぐに保つことである。そうするために、この転換の時は、意識して、身体の前面が真っ直ぐ、あるいは、少し凹んだくらいになるよう、腹を締めること。決して反らないことが大切だ。そうすると、同時にキックも自然に入る

これら動きは同時に行われ、グライドの時間に比べれば一瞬である。右肘を伸ばすときに受ける水流抵抗により、右肩が急激に押し下げられ、同時にキックも打たれ、左腕の肩が下りてその前腕が身体に巻き込まれることによって、クルンと回る。左右のイルカの姿勢が素早く完成され、同時に効率の良いプルも行われているということだ。

(c) 早目のリカバー

左腕が臍までプルしたら、腋を開いて弧を描いて水上に抜くが、その時に最後に手のひらで軽くスナップする。

これは、リカバーを早くする効果、リカバーして前に出す腕が前進する身体の慣性を弱めてしまうことを軽減する効果がある。これにより、体重を前方に早くかけ、ピッチを速くすることが可能となる。

(d) グライド及び突き込みの準備

左腕を抜き終わったら、速やかに前方まで肘を高くして腕を運び、前腕は、だらっとぶら下げた状態で頭の上で一旦止めること。

これは、腕全体の重さを早く前に出し、空中で止めることで、下肢が浮き、身体が水平に保たれる効果、止めることで、身体を前に押し出す効果が期待される。肘を高く取るのは、ローリングを確実に行うこと、腕の位置エネルギーを高めて次のローリングの勢いを付ける意味がある。また、前腕をだらっと下げるのは、リラックスする意味もあるが、入水の位置を手前にしたいためもある。前方に入水すると、上から抑えてローリングに勢いがつかなくなる虞があるからである。

このイルカの姿勢が、ちゃんとできているかどうか、確認すること。腰が反っておらず、腰も回転していることも確認しよう。

イルカの姿勢で、速度が鈍くなったら、(a)に戻る。

 

以上であるが、身体は、常に丸太のように真っ直ぐに保つことが、何よりも重要である。

そのためには、前方に沈めこんで体重を載せる腕の腋の角度は、無理のない程度にとどめること。これを無理に行うと、胸が反ったり身体が歪む。その上、三角筋僧帽筋疲労する。

身体が真っ直ぐに保たれれば、ローリングも滑らかに行われるはずであるが、意識して、肋骨を上に引き上げ、胃を肋骨の中にしまうようにすることも、非常に効果がある。

とかく、息継ぎで、顔を水上に持ち上げる人は多いが、そうすると、たちまち身体が歪んで抵抗が増してしまう。しかるに、こうして肋骨を上げ腹を細くすれば、下肢が浮き、浮力も増すので、まっすぐな身体を水平に保ったままで、真横で楽に息継ぎができるようになる。

(キックについて)

キックは自然に打たれるので、気にすることはないと書いた。

しかし、敢えて書くならば、大きくゆっくりと打つことを奨める。散歩キックだ。

大きく膝を緩めると、上体が反ることはなく、まっすぐに保たれる効果があり、これで、ゆっくりと大きく打つと、前傾して、つまり、前のめりのような感覚ですべるように進んでいくことができる。

25mを25秒くらいまでの速度で泳ぐのであれば、これが相性がよいと思う。

 

ところで、前記事とこの記事で説明してきた泳ぎは、オリジナルではない。

身体に合わせてクロールを最適化すると、こうなるであろうと考えるものだ。TIswimとも似ているであろうし、チャックさんがブログで書かれているスタイルにも近づいているだろうとも思う。

他の方々の理論を十分に理解できているわけではなく、私自身が、考察した結果がこのようになったというものだ。

それゆえ、この泳ぎに名前をつけるつもりはないが、私自身の「らくらくクロール」には違いのないところであり、いつも、10種類のメドレーに加えて泳いでいる。

 

さて、前記事で書いた通り、速く泳ぐためには、ピッチを速めなければならない。しかも、1ストロークの距離も減らさないようにしなければならない。

仮に、1ストロークに2秒、13ストロークで力を抜いて泳げば、25mあたり30秒くらいで泳ぐことになる。

ストロークにかける時間を短くすれば、速くなるが、ストローク数は14〜16と増えていくだろう。そのとき、力むと、さほどタイムには反映されないということもある。

疲れない、流れるような美しい泳ぎを、じっくりと、目指したいものである。

 

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34. クロールを自分に最適化する その1(グライドとキャッチ)

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今回は、 クロールを自分に最適化するとした。

プールで、いろいろな方のクロールを見ていると、クロールの型というイデアがあって、それに自分を合わせるように努力しつつ、でもうまく行っていない、というような気がする。

人というのは、それぞれ身体も心も、異なった個性があるのだから、私は、クロールを自分に最適化したほうが良いと思う。

これからの2回の記事は、そのテーマに充てたいと思う。

この記事は、その1として、グライドとキャッチを扱う。

1. 最も抵抗の少ない姿勢

最も抵抗の少ない姿勢を理想的に描けば、身体を水平に一直線にすることだということは、誰しも疑わないだろうし、何回も私も、そう書いた。

誰でも、これができれば問題はない。しかし、それぞれの身体には、それぞれの個性がある。

それを考慮すると、一意に、一直線になろうとしさえすれば良いのだ、とは言えなくなるのではなだろうか。

多分、人それぞれにとって、水の抵抗の最も少ない姿勢が異なる可能性は高い。

しかし、ともあれ、一番抵抗が少なく、バランスが良い姿勢は次のようなものであろう。

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「顔は水底に向けたまま、なるべく身体を横に向けて、体全体は水平にまっすぐに保つ。片腕は、真っ直ぐに前方に伸ばし、できるだけ肩を前に出し大きく腋を空け、その肩を顎関節(顎の蝶番)あたりにあてる。反対に、もう一方の腕は水上に肘を高く挙げ、完全に脱力して前腕を頭のなるべく前に垂らすように肘を前方上に保つ。」

これは、多分、TIswimでいう「サメのポーズ」にかなり近いと思われるが、私自身は、TIを習ったことがないので、TIには言及しないことにする。それゆえ、ここでは便宜的に、これを「イルカの姿勢」と呼ぶことにしよう。

前方に伸ばした腕は、肩を目一杯伸ばしているので、水の抵抗は少ない。

顎関節あたりを肩に付けるのは、腕を伸ばす方向を真っ直ぐに定位するためと、顔と腕の間に受ける水の抵抗をなるべく少なくするためである。

もう一方の水上の腕は、前方に体重をかけて下肢を浮かせ、次の動作に備えて最も効果的な位置を保ち、リラックスする形をとっている。

体全体は水平に保たれて沈み、水面での造波抵抗を受けるのは肩のみとなっている。

できるだろうか?

この姿勢でグライドする時間を長く取ればとるほど、楽ということになる。

2. 自分にとって最も抵抗の少ない自然な姿勢

上記の姿勢は、抵抗は少なく、苦労なく、真っ直ぐ、腕が前に伸び、下肢が水平に浮いて入れば、何の問題もない。

しかし、多分、前に出した腕の腋の角度は、人によって各様ではないだろうか。

私にとって、真っ直ぐ腕を前に出す姿勢は、先天的に無理だが、多くの人にとっても、老人になれば、関節の柔軟性にも問題が出てくるであろう。首だって回りにくくなるだろう。

だから、この角度は、苦労しない範囲で、できるところまで開ける、ということになる。

そうすると、最も腋が開く方向に伸ばした腕の水面との角度が問題になる。

伸ばす腕の方向は、左右のバランスを考えると、真っ直ぐ前、プールの横の壁とほぼ平行を目指すべきである。つまり、上から見れば、コースロープと平行ということで、前方の深みに突きこんだ形だ。そのときの上体のローリングの角度も、人によって異なってくる。

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では、この姿勢を確認するために、事前に鏡の前でやってみよう。

大 きな鏡の前に対面し、胸を反らないようにして、両腕を下から上までゆっくり上がるところまで挙げてみよう。

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このとき、高いところを目指して肩も上がるとこ ろまで上げる(つまり、左鎖骨の左端と右鎖骨の右端を一番上まで挙げる)。そして、最も楽に肘が後ろになるような腕の位置を探そう。

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バンザイの形になるはずだ。あくまでも、胸を反らないようにする。

そして、右の腕の肘から先を脱力して手のひらを頭の上に載せよう。

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次に、鏡を両眼で真っ直ぐ見ながら、足踏みして、少しずつ身体を右に回転させていこう。

すると、左腕が鏡で鉛直に見えるところまで来るはずだ。そのとき顎は左肩に近づき、顎関節が肩に付けばそこまでで良いし、できなければ、無理なくできるところまでで良い。

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また、首の回る範囲も人それぞれであろう。もし、鏡に正対できなくなるならば、左腕が鏡で鉛直に見えまでの姿勢を優先する。

人によって、バンザイの腕の角度は大きく異なるだろう。

鏡の前のこの姿が、自分のイルカの姿勢であり、この腕の角度が自分にとって最適な腕の角度である。そして、このときの身体の回転の角度が、自分の最適なローリングの角度となる。

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一応は、そういっておこう。ただし、本当に、そうだろうか?

多分、それは、前方に真っ直ぐ伸ばした腕の水面となす角度が、どれくらいの大きさになるかによると思う。

3. 前に伸ばす腕の角度と抵抗

この、真っ直ぐ前方の深みに伸ばした腕の、水面との為す角度が、20〜30度くらいであれば何の問題もなかろうが、仮に45度くらいであれば、結構腕の上面に受ける水流の抵抗が大きく感じられるだろう。

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腕の上面に抵抗を受けることには、欠点もあり利点もある。

まず、欠点であるが、2つ挙げよう。

ひとつは、端的な話、速度を減じてしまうこと。ちなみに、極端かもしれないが、鏡の前で腕が水平までしか上がらなければ、泳ぐときには真下に伸ばすことになってしまう。これでは流れに逆らう杭のようなもので、最大抵抗を生むことになってしまう。

2つ目の欠点は、腕を保持するために疲労するということだ。腕を伸ばし、肩を上げ、これを保持するためには、僧帽筋三角筋等を動員しなければならない。これは、楽で力強いプルを生み出すための準備として広背筋や大胸筋を伸ばすという重要な役割があるのだが、これで疲労がたまってしまうのであれば困る。そうであれば、なるべく、腕を横に開いて、腋の上に体重をドーンとかけると軽減される。また、上体を捻るのではなく、腰もちゃんと傾けて丸太のように真っ直ぐにすることだ。

しかし、利点もある。ここでは、2つの利点を挙げておこう。

1つは、下肢を浮かせる効果だ。腕を下げようとする水の抵抗に対して頑張ることで、身体をつんのめらせる力が加わり、そのモーメントが下肢を持ち上げるのだ。それにより、キックしなくても水平に浮くことができるようになる。

2つめの利点は、それだけで、ある程度キャッチできているということ。つまり、水を腕にまとわりつかせているということだ。しかし、このことは、即、速度を減じる要因になっているという欠点と裏腹の関係になるので、これが大きいほど、この姿勢でのグライドでは、減速も大きいということになってしまう。

この角度が大きいからといって、胸を張り、背中を反らせて腕を挙げてはいけない。体全体の抵抗のほうが大きくなるに違いないからである。

それゆえ、私は、この角度があまり大きくて、減速、筋疲労が気になるようであれば、泳法を私の推奨する鉤腕泳法等に変えたほうが良いと思う。

では、実際に、どの辺りで、折り合うのが良いのだろうか?

40〜50度くらいであれば、それぞれ試してみて、速度もあがる見込みがあればそれでよいが、、速度も大して上がる見込みもなく、疲労がたまるだけなのであれば、他泳法に変える折り合い点とみれば良いのではないかと考えている。

さて、次に、この前方に伸ばした腕とキャッチの関係を考えていくことにしよう。

4. キャッチ

より効率的に泳ぐには、力強い推進力が必要となる。

そのためには、1ストロークで長く進むようにすることだ。

これを助ける大きな要素が、キャッチである。

いま、イルカの姿勢で、左腕を、前方に伸ばしているとしよう。

楽に、しかし、意識的に、より前に伸ばしている姿勢だ。

そ の左肘から先を、ふっと緩める。そうすると、前腕が水に押されて肘が曲がり、ゆるく弧を描いた前腕に周りの水が絡んでくる。これが、キャッチである。

肘の曲がる方向は、個人によっても若干異なるであろうし、自然に曲がる方向で良いと思う。

この腕の周りにとらえた水を、なるべく壊さないようにまとめて後方に押し出すのだ。

これを行わないで、性急にプルを行うと、スコンと空振りをしてしまう。

5. らくらくクロール(オリジナル泳法)におけるキャッチ

これまで私が、このブログで紹介してきた「らくらくクロール」では、あえて、前方に目一杯身体を伸ばさなくて良いとしている。それは、もちろん、伸びるためには結構疲れるということがあるからである。

それゆえ、前方に突き出す腕は、弧を描いていたり、肘を完全に曲げたりしている。

弧を描いた形をしているのは、円月泳法だ。

これは、その形でキャッチができている。ただし、泳ぐ速度を速めて行く場合は、次第に前方に伸びていくことになる。その場合は、伸ばした肘を一旦緩めるということが必要となってくるであろう。

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一方、鉤腕泳法では、完全に前腕を水平に真っ直ぐ前方に向けて、前腕には水の抵抗を受けないようにしている。その分、上腕(二の腕)には、まともに水流の抵抗を受けるが、下肢を浮かす効果があるから、それで良しとしている。

この腕でキャッチを行うには、どのようにするか?

単純には、やはり、肘の力を一旦抜いて、腕相撲のように前腕が倒れてくるようにする。

しかし、もう少し泳速を上げるときは、ストロークの長さを確保するために、鉤腕を前方に迎えに出す。つまり、下に直角に構えた鉤腕の肘の角度を、もっと大きくするように前に伸ばして、やおら、遠くを眺めるように前腕を額の上あたりにかざすのだ。

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他の泳法の場合も、泳ぐ速度を上げたい場合や、ストローク数を少なくしたい場合は、腕を、より前方に出し、キャッチを効率的に行うように一旦肘を緩める動作が必要となる。

もちろん、速く泳ぐためには、ピッチを速めなければならない。しかも、1ストロークで進む距離も減らさないようにしなければならない。また、楽にこれができるようでなければ、文字通り、楽しくない。

12ストロークで25mを泳げても、1ストロークに2秒以上要するならば、全体で30秒くらいはかかってしまうだろう。

これを短くしたいならば、ピッチを速くするしかない。つまり、例えば1ストロークを1秒にするということである。しかし、ピッチを速くすれば、ストローク数は増える。仮に、1ストローク1秒で、25mを20秒で泳ぐには、17ストロークくらいで泳げば良いことになる。

ピッチと1ストロークで進む距離の関係は難しいと思う。私自身、随分苦労している。ピッチを速くしても、ストローク数があまり増えないようにするには...

キャッチの時間を長く取れば、ピッチが遅くなるし、受ける水流抵抗も大きくなる。

スライドを長くし、ピッチを速くするためには、イルカの姿勢の速やかな左右転換である。

しかし、記事が長くなるので、そのことは、次回の記事に書くことにしよう。

悩みながら、キャッチとピッチの速さと疲労の具合を、時計の秒針をにらみつつ、調整する毎日である。

 

次の記事を読む 35. クロールを自分に最適化する その2(速やかな左右転換)

 

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33. キャッチの感覚

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随分長いご無沙汰であった。

このところ、時間があるときは、つい、他の趣味などに手が出てしまって、しばらく、このブログから離れていた。

もちろん、泳いでいなかったわけではない。

毎日、一時間ほど泳いでいる。

距離は決めていない。

その日の体調も違うし、プールといっても、還流する水や、隣でアクアビクスやウォーキングしていれば、随分影響も受ける。

そもそも、同じコースを複数人で分かち合う場合、泳ぎ方も変わる。

たとえば、週に、2〜3回は、ゆっくり2kmくらい連続して泳ぐ。これは、私より10歳年上の女性で、曜日によっていつも同じコースで一緒に泳ぐ方の連続して泳ぐペースに合わせるからだ。

丁度、表と裏、つまり、背泳とクロールを50mずつ交互に泳ぐのに丁度よい。

私は距離を数えるのが苦手だ。2〜3回以上は「たくさん」になってしまうのだ。だから、泳いだ距離を知るには、一緒に泳ぐ方が数えてくれさえすれば、自分が数える必要がなくなる。

そもそも、私には、距離を数える積極的な理由がない。1時間ほど泳げば良い。

だから、あえて距離を数えるときは、10種類の泳ぎをメドレーで泳いで250mずつ数えたり、メドレーにしない場合は、50mでのペースと時刻の関係で距離を割り出す。

だから、普段は距離を気にして泳いではいない。

また、同じコースで、自分の限界より速く泳ぐ人に合わせて泳ぐのは無理だから、その時には、追いつかれたら一休みする。

自分より遅い人であれば、ゆっくり泳ぐか、休みを入れながら速く泳ぐ。抜くようなことは、ほとんどしない。

特に、ゆっくり泳ぐ場合は、キャッチやプルの効率を試す良い練習になる。

この半年ほどは、特にキャッチからプルのときに、いかに水を捕まえていられるかを考えて泳いでいた。

 

キャッチの感覚

キャッチを念頭にゆっくり泳ぐと、クロールの場合、大体12〜13ストロークに落ち着く。

30秒前後で泳ぐ場合には、それで良いが、もっと速くすると、なかなか水塊を捕まえていられないような気がしている。

肘から先を緩めて、ふわっと水を掴んだら、その水塊を壊さないように、ゆっくりと後方に押し出していく。急にプルすると、この水塊が壊れてしまうからだ。ゆっくりと、そして加速しながら、腹まで来たら脱力して脇を開けて腕を抜いていく。

しかし、プルだけ考えてもうまくない。プルは、もう一方の前方の深みに突き込む腕及びローリングの反作用としてなされるものだからだ。

なので、これが、自然にできるように、半ば眠っているような感覚でやっている。

 

次の記事を読む 34. クロールを自分に最適化する その1(グライドとキャッチ)

 

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32.2 「速く泳ぐ方法」と「楽に泳ぐ方法」の相違 その2

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この記事は、前記事31の続きである。

3.楽に泳ぐ方法

既に、「速く」泳ぐための要件は整理した。次の3つであった。

(1) 抵抗の最小となる基本姿勢をとること
(2) 有する部品(手足)で、最大の推進力を生じさせること
(3) 最大推進力を継続して生じさせること

これを踏まえて、今回は、「楽に泳ぐ方法」について書くことにする。

全ての犠牲を受け入れて、上記3要件を満たすように頑張って泳ぐのでは、楽であるはずはない。
だから、どこかの無理を和らげるとか、急所だけに力を注ぐことはできないかということになる。

つまり、「楽に」と言っても、浮かんでいるだけでは嫌で、「楽に速く」泳ぎたいというのが本音であろうからだ。
だから、強いられる犠牲をできるだけ回避して、「そこそこに速く」泳げるにはどうすれば良いかというのが課題となる。

速く泳ぐ方法にも、個人個人の資質や個性に依存するところが大きい。しかるに、「楽に泳ぐ」ということに至っては、もっと個々の状況に依存するところが大きいだろう。
そもそも、最速で泳ぐための泳ぎ方が、筋力や持久力は別として、苦にならないのであれば、この記事は不要である。
つまり、いろいろな個性があるからこそ、それらにあった、楽な泳ぎ方があるはずだと思うのだ。

ともあれ、ここでは、最速で泳ぐための要件と、楽になる要件が、どのように折り合うかという観点で考えてみたい。

なるべく、速く泳ぐ要素を損なわないように、個々人の個性や資質の範囲で、一番「楽に」行える方法を探せば良いだけである。
では、それぞれの項目別に検討してみよう。

(1) 抵抗の最小となる基本姿勢をとること
これは、何もしなくても、真っ直ぐに「伏し浮き」できるようにすることが一番である。
そのためには、重心を引き上げる。その方法として、

・なるべく、前方に(両)腕を残す時間を多くとり、さらに、リカバーした腕を、空中に浮かせる時間も暫しとる。
・内蔵を引き上げるために、肋骨を上に引き上げ、胃を肋骨の中にしまい、お腹を細くする。

この2つが効果的である。
これにより、全くキックなしでも、驚くほど楽に下肢が浮くようになり、水上を前のめりに滑り落ちていくような、それまでと全く異なった感覚で前進できるようになる。

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これ自体は、あまり個性に依存することはないだろう。キックは、下肢の血流量を増加させ疲労も生むので、文字通り選択肢である。私は、泳速を上げたい時や姿勢を制御したい時に使えば良いと思っている。

(2) 有する部品(手足)で、最大の推進力を生じさせること
この項目が最も論議を生むところかもしれない。これが、S字プルやハイエルボー、ストレートプルなどという言葉を生むことになったのだから。
しかし、私は、単純に考えている。「楽に」という前提を立てるかぎり、大して難しい理屈はないと思うからだ。

まず、検討する部品の対象であるが、「速く泳ぐ方法」で述べたように、「前腕」だけである。キックは前項に述べた理由により、ここでは考慮しない。
前方に振り出し、後方に送り出す前腕について、楽で、効率の良い動きの要件は、つぎのとおり。

場合ごとに分けて羅列する。

A.前腕を、前方に伸ばす時の要件
(a) なるべく両腕を長く前方に置くこと(これは(1)からくる要件で、下肢を浮かせるため)
(b) できれば、前方の空中に置くこと(同上)
(c) 楽に腕を上げた姿勢を基本とすること(無理な内転や外転をしない。)

B.キャッチする時の要件
(d) Aにて前方に伸ばした前腕を、自然な方向に緩めること
(e) 手の甲及び前腕の形が、水流の抵抗を受ける形になっていること

C.プルするときの要件
(f) 手の平及び前腕が、水流の方向に対して直角に近い形を保っていること
(g) 三頭筋のような疲労しやすい筋肉を使わず、体幹を利用したプルであること
(h) 手の平の水に対する迎角が、最大効率の揚抗力を受ける角度であること

これらの要件全てに適合するプルの形は、これまでに紹介した泳法の中でいえば、次の動画の鉤腕泳法である。

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円月泳法も、ほとんどを満たしているが、(b)の要件を欠いている。
前方に自然に伸ばした腕が、真っ直ぐ前方に伸びているのであれば水流の抵抗を最も受けないので最高の形であるが、普通、力を入れない楽な姿勢であれば、恐らく万歳をするような角度で伸ばすことになろう。その場合は、当然、水流の抵抗を受けることになる。抵抗をひとつの腕に受ければ、速さをそぐだけでなく、そちらの方に重心を中心として身体を回転させる力が加わる。
左右や斜めに回転するのは具合が悪い。それゆえ、回転して良い方向というのは、前転、つまり、下肢を浮かせる方向だけである。それゆえ、斜めに腕を伸ばすのであれば、真っ直ぐ前方のみである。鉤腕泳法では、斜め下方に、肘まで真っ直ぐ伸ばさずに、肘から手の先までを水面に平行に前に伸ばして抵抗を減らしている。ちょうど、真下の中央線を片手の肘を立てて拝んでいるような姿勢だ。
円月泳法では、軽く肘を曲げて、プルの軌跡とともに全体抵抗のブレの中和を企っている。

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(3) 最大推進力を継続して生じさせること
最大推進力は、最大抗力から生まれる。そして、その形は、上記(2)の要件(f)を満たしていることが望まれる。
そして、疲労という観点を考慮しなければ、直線的なプルであることが望ましい。
さらに、最大速度を達成するためには、常に、左右どちらかが、このプルの状態にあることが望ましい。しかし、「楽に泳ぐ方法」においては、「疲労度」と「そこそこの速さ」との兼ね合いとして良い部分である。
したがって、前項までの要件を加味するならば、次のようなプルが、らくであり、効率的であると考える。

(i)プルする手の平及び前腕が、水流の方向に対して直角に近い形を保っていられる臍付近まで直線的にプルし、
(ii)その後は効率中心の揚抗力を利用して、薬指を先行させて水上に斜めに抜き去り、
(iii)そのままブーメランのように弧を描いて頭の前まで持ってきて、
(iv)そこで、若干止めて、身体を前のめり気味に滑るに任せ、速力が落ちてきたら、
(v)自然に前方深みに突き込んで、なるべく水流の抵抗を受けないように、楽に伸ばす。

このプルの動きは、まさしく、鉤腕泳法のプルそのものである。
鉤腕泳法の名称の由来は、前方に突きこんだ腕の形にあるが、これは、水底の中央線に沿って真っ直ぐ前腕を進行方向に向けるようにするものだ。この形は、ローリング角が小さい時には、軽く前腕が外転するが、無理のないごく自然な形である。(i)では、肘の高さと手首の高さは同じか、肘が低い。つまり、ローエルボーと言って良いが、ローリングを大きく取るにつれて、自然にハイエルボーとなっていく。要は、肘の高さが問題になるのではなく、しっかりしたキャッチを行い高い抗力を得たプルができているかだけが重要なのである。

「そこそこの速さ」の調整は、上記(iv)で、頭の先で、若干止める時間の調整で行う。ここで、ゆっくり慣性で進むに任せる場合には、ローリング角を大きくとり、真横まで向く。
当然、ローリング角を大きく取るようにすれば、ゆっくりとした泳速になる。横まで向けば、筆者の場合、25mを10ストローク、35秒くらいで泳ぐことになる。このピッチの調整が、いくらでも効くのが鉤腕泳法だ。
円月泳法でも同様ではあるが、円月で円く差し出す両腕が縦長に伸びていれば問題ないが、楕円から円へと肘を曲げる角度が大きくなれば、その分抵抗は大きくなる。

S字プルも、上記の要件をいくつか欠いてはいるが、ひとつの解ではあると思う。これが楽な人は、迷わずS字にすれば良い。しかし、S字プルというのは、プル全体が外、内、外のスカルで成り立っている。これは、腕の内転から入って、外転し、再び内転して抜いていくという難しいもので、身体の姿勢も、歪んだり反ったりする人も多く見かける。そして、ストロークも多くなりがちである。プルの軌跡が長く、揚抗力の効率も良い泳法であるとは思うが、例えば、これから健康のために始めるという還暦スイマーに対して、わざわざ、このような難しい選択を奨める気にはなれない。

以上、「楽に泳ぐ方法」について述べてきたが、ここでの筆者の結論は、鉤腕泳法であり、円月泳法であった。
この両者については、どちらも、泳速を上げようとするならば、腕を前方に限りなく伸ばし、ローリング角も最小限に留めていく必要があるのだが、そうすると、円月泳法も鉤腕泳法も、同じような姿勢に収斂されていく。
その理想の形は、現代のトップスイマーの形に近似していく。もちろん、肩関節の柔軟性や筋力などに雲泥の差があるので理想でしかない。
要するに、「速く泳ぐため」の姿勢は、身体の資質に特異な特徴がなければ(誰でも肩関節を柔軟にできるわけではないといったこと)、その要件を満たす方法は、かなり一意に決まっていく傾向があるのだと思う。
そして、その反面、「楽に泳ぐ方法」については、個性に応じた実現の方法が、個性の数ほど多くあるだろうということだ。
それらの、選択肢として、筆者の考案した鉤腕、円月、招き猫、八の字などの泳法が参考になれば幸いである。

以上のとおり、これまでは、自由形を前提に書いてきたが、他の泳法においても基本的な要件は変わるものではない。それぞれについても、同様に検討してみる価値がありそうだ。

ともあれ、速く泳ぐためには、重心を上下左右にブレないようにして、真っ直ぐ進めることが重要である。しかし、より楽に、より面白くという観点を加えるならば、選択肢はもっと大胆に広がっていく。
「そこそこ速く」というのが、25mを25〜30秒程度で良いのだとすれば、やぎロールやイルカ泳ぎも同程度の速さである。
一度試してみられたらどうか。「こんな泳ぎがあっていいの?」というほど楽しくなること請け合いである。

f:id:mehme:20151231195419g:plainやぎイルカ泳ぎ

 

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32.1 「速く泳ぐ方法」と「楽に泳ぐ方法」の相違 その1

 このブログの内容を、体系的にまとめて、次のウェブサイトで公開している。

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1.はじめに

速く泳ぐ方法論は、ちまたに溢れている。
しかし、恐らく、その方法論は、誰にでも適用できるわけではないだろう。
膨大な数の競泳者の中から、努力と資質と天性によって選ばれた人たちだけが、最終的にオリンピックなどの競技に出場できるのだ。
例えば、かつて、2000年代初頭に活躍した、イアン・ソープというオーストラリアの選手がいた。彼の泳ぎは、誰でも真似ができるというものではない。つまり、身長196cmという体格と、柔軟性、筋力、持久力等々が揃っていなければ、彼の記録は達成できるものではない。
彼の泳ぎは、当時主流であったS字プルではなく、それらと比べるとゆっくりとしたストロークの直線的なプルを行うものであった。その泳ぎで、彼が金メダルを獲得した個人種目は、200mと400mであった。なぜか、100mや1500mでは勝てなかった。その理由は、彼の泳ぎのスタイルにあるようだ。
ゆっくりしたストロークは、彼の身長が高かったせいもあるだろう。しかし、ハイエルボーで直線プルを行う場合、ある程度までリカバリーしないと、身体の機構上、もう一方のプルを開始しにくいという理由が大きいと私は思う。それゆえ、彼は、短距離の100mで勝てなかったのではないだろうか。
また、直線プルは、最大抗力を生むプルではあるが、それだけエネルギーも消費する。それゆえ、長距離になると、体力の消耗が次第に効いてくる結果となったのだろう。
昨今のトップスイマーたちの多くは、I字プル又はストレートプルといわれるプルを行っているようだ。ソープ選手の泳ぎ方は、その嚆矢であったが、泳法は、時の流れにつれて変わってきているようだ。
しかし、物理法則そのものが変わるわけではない。法則をうまく活かす方法が、身体との関係で変わってきているにすぎない
この記事で、筆者が論じたいのは「エネルギー効率が良く、楽に泳ぐ方法」であるが、そのために、最初に、速く泳ぐ方法とはどんなものであるのかを確認しておき、その上で、を、これと対比する形で「楽に泳ぐ方法」を考察したい

ここでは、記述が煩瑣になるので、泳法規則に縛られない(つまり自由形)ことを前提としよう。


2.速く泳ぐ方法

これは、理論的には単純である。
次の3要件を満たす泳法を、工夫し、要件相互に調和をとって、実現することだ。

(1) 抵抗の最小となる基本姿勢をとること
基本法則で書いたとおり、水の抵抗を極力少なくするためには、「推進する方向に向かって、真っ直ぐ伸び、水面下に沈んでいる姿勢が一番良い。」
それゆえ、どのようなプルやキックを行うにせよ、真っ直ぐの身体を水面近くに、重心がぶれることなく保っていることが大切であり、これを崩すようなプルやキックはしないほうが良いということである。少なくとも、頭を先頭に上体を、丸太のように真っ直ぐ水平に保つことは最低要件であろう。身体が全面的に水上に出す事が可能であれば、水面下である必要はないが、造波抵抗に関しては水上に出さないほうが抵抗は少ない。

(2) 有する部品(手足)で持てる最大の推進力を生じさせること
最大の効果を有無方法は、上肢を使って、最大抗力を生む形状を作り、速く動かすことだ。
実現方法としては、前腕から手の平までを、進行方向に直角に保ち、後方に一直線に、速く、長く動かすことだ。(上腕は、余り考慮することはないだろう。なぜならば、上腕は、肩関節から肘までであり、どのようなプルを行っても、前腕と比較して抗力を生む効果はかなり小さいと考えられ、また、上腕の動きの違いによって、その効果が大きく変わるとも考えにくいからだ。)
下肢も推進効果を有無が、上肢ほど効果は生まないであろう。ただ、(1)を実現させるために下肢を使うのであれば、それは、もったいない使い方であるので、前進のために利用すべきである。

(3) 最大推進力を継続して生じさせること
上肢の動き(プル)の可動距離には限界がある。それゆえ、リカバリーを行わなければならない。リカバリーを行っている間は、もう一方の上肢で推進することになる。問題は、推力を常に最大に保っているかである。そして、競技であれば、決められた距離の間、それを保つ体力があるかということである。
そのためには、最大抗力を生む形状と動きを左右の腕で継続できるストロークの方法と回転数を、決められた距離の間、総合的に最大になるようにしなければならない。場合によっては、ピッチを上げたり、ローリングの角度を小さくする必要も出てくるだろう。

速く泳ぐ方法は、原理的には上記のとおりだが、その実現方法は、人の個性や資質によって随分異なる。
そもそも、「速い」ということは、競技でしか測れない。したがって、競技であれば、泳法や距離に規定がある。
例えば、冒頭に述べたように、ソープ選手は、自由形で、上記3要件を満たすハイエルボーのストレートプルの方法をとった。その結果、回転数は落ちるが、最大抗力を得て、中距離では敵なしという結果となった。当時、その他の選手はS字プルであり、その中から、スクリューのように、揚抗力の効率の良い泳ぎで、回転数を上げて100mを制した人がおり、また、1500mを制する体力を確保した人が他にいたということになる。
しかし、それは、2000年代初頭の、その時点での話である。
現在は、ストレートプル全盛の時代らしい。しかし、その泳ぎは、ソープ選手の泳ぎとは異なってきているようだ。

今後、どのような泳ぎになっていくにせよ、上記の3つの原則を、いかに、与えられた競技の枠で、特定の個人が、その資質の中で効率よく実現するかということに尽きる。そのためには、相応の犠牲を強いられることも辞さないということだ。そしてそれこそが、「楽に泳ぐ」ということと相反する要素となる。
実現方法については、多くの解説書があるので、ここで、あえて素人の筆者が説明することは僭越に過ぎる。上記3要件の観点で、それらの解説書を検討して欲しいと思う。

次は、本論の「楽に泳ぐ方法」についてであるが、長くなるので、次回に回そう。

 

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