やぎさんのオリジナル泳法のすすめ

楽に、静かに、できれば速く、還暦すぎてのラクラク健康スイミング (円月泳法、鉤腕泳法、八の字泳法、招き猫泳法、らくらく2ビート背泳、やぎロール、イルカ泳ぎ等)

32.2 「速く泳ぐ方法」と「楽に泳ぐ方法」の相違 その2

 このブログの内容を、体系的にまとめて、次のウェブサイトで公開している。

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この記事は、前記事31の続きである。

3.楽に泳ぐ方法

既に、「速く」泳ぐための要件は整理した。次の3つであった。

(1) 抵抗の最小となる基本姿勢をとること
(2) 有する部品(手足)で、最大の推進力を生じさせること
(3) 最大推進力を継続して生じさせること

これを踏まえて、今回は、「楽に泳ぐ方法」について書くことにする。

全ての犠牲を受け入れて、上記3要件を満たすように頑張って泳ぐのでは、楽であるはずはない。
だから、どこかの無理を和らげるとか、急所だけに力を注ぐことはできないかということになる。

つまり、「楽に」と言っても、浮かんでいるだけでは嫌で、「楽に速く」泳ぎたいというのが本音であろうからだ。
だから、強いられる犠牲をできるだけ回避して、「そこそこに速く」泳げるにはどうすれば良いかというのが課題となる。

速く泳ぐ方法にも、個人個人の資質や個性に依存するところが大きい。しかるに、「楽に泳ぐ」ということに至っては、もっと個々の状況に依存するところが大きいだろう。
そもそも、最速で泳ぐための泳ぎ方が、筋力や持久力は別として、苦にならないのであれば、この記事は不要である。
つまり、いろいろな個性があるからこそ、それらにあった、楽な泳ぎ方があるはずだと思うのだ。

ともあれ、ここでは、最速で泳ぐための要件と、楽になる要件が、どのように折り合うかという観点で考えてみたい。

なるべく、速く泳ぐ要素を損なわないように、個々人の個性や資質の範囲で、一番「楽に」行える方法を探せば良いだけである。
では、それぞれの項目別に検討してみよう。

(1) 抵抗の最小となる基本姿勢をとること
これは、何もしなくても、真っ直ぐに「伏し浮き」できるようにすることが一番である。
そのためには、重心を引き上げる。その方法として、

・なるべく、前方に(両)腕を残す時間を多くとり、さらに、リカバーした腕を、空中に浮かせる時間も暫しとる。
・内蔵を引き上げるために、肋骨を上に引き上げ、胃を肋骨の中にしまい、お腹を細くする。

この2つが効果的である。
これにより、全くキックなしでも、驚くほど楽に下肢が浮くようになり、水上を前のめりに滑り落ちていくような、それまでと全く異なった感覚で前進できるようになる。

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これ自体は、あまり個性に依存することはないだろう。キックは、下肢の血流量を増加させ疲労も生むので、文字通り選択肢である。私は、泳速を上げたい時や姿勢を制御したい時に使えば良いと思っている。

(2) 有する部品(手足)で、最大の推進力を生じさせること
この項目が最も論議を生むところかもしれない。これが、S字プルやハイエルボー、ストレートプルなどという言葉を生むことになったのだから。
しかし、私は、単純に考えている。「楽に」という前提を立てるかぎり、大して難しい理屈はないと思うからだ。

まず、検討する部品の対象であるが、「速く泳ぐ方法」で述べたように、「前腕」だけである。キックは前項に述べた理由により、ここでは考慮しない。
前方に振り出し、後方に送り出す前腕について、楽で、効率の良い動きの要件は、つぎのとおり。

場合ごとに分けて羅列する。

A.前腕を、前方に伸ばす時の要件
(a) なるべく両腕を長く前方に置くこと(これは(1)からくる要件で、下肢を浮かせるため)
(b) できれば、前方の空中に置くこと(同上)
(c) 楽に腕を上げた姿勢を基本とすること(無理な内転や外転をしない。)

B.キャッチする時の要件
(d) Aにて前方に伸ばした前腕を、自然な方向に緩めること
(e) 手の甲及び前腕の形が、水流の抵抗を受ける形になっていること

C.プルするときの要件
(f) 手の平及び前腕が、水流の方向に対して直角に近い形を保っていること
(g) 三頭筋のような疲労しやすい筋肉を使わず、体幹を利用したプルであること
(h) 手の平の水に対する迎角が、最大効率の揚抗力を受ける角度であること

これらの要件全てに適合するプルの形は、これまでに紹介した泳法の中でいえば、次の動画の鉤腕泳法である。

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円月泳法も、ほとんどを満たしているが、(b)の要件を欠いている。
前方に自然に伸ばした腕が、真っ直ぐ前方に伸びているのであれば水流の抵抗を最も受けないので最高の形であるが、普通、力を入れない楽な姿勢であれば、恐らく万歳をするような角度で伸ばすことになろう。その場合は、当然、水流の抵抗を受けることになる。抵抗をひとつの腕に受ければ、速さをそぐだけでなく、そちらの方に重心を中心として身体を回転させる力が加わる。
左右や斜めに回転するのは具合が悪い。それゆえ、回転して良い方向というのは、前転、つまり、下肢を浮かせる方向だけである。それゆえ、斜めに腕を伸ばすのであれば、真っ直ぐ前方のみである。鉤腕泳法では、斜め下方に、肘まで真っ直ぐ伸ばさずに、肘から手の先までを水面に平行に前に伸ばして抵抗を減らしている。ちょうど、真下の中央線を片手の肘を立てて拝んでいるような姿勢だ。
円月泳法では、軽く肘を曲げて、プルの軌跡とともに全体抵抗のブレの中和を企っている。

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(3) 最大推進力を継続して生じさせること
最大推進力は、最大抗力から生まれる。そして、その形は、上記(2)の要件(f)を満たしていることが望まれる。
そして、疲労という観点を考慮しなければ、直線的なプルであることが望ましい。
さらに、最大速度を達成するためには、常に、左右どちらかが、このプルの状態にあることが望ましい。しかし、「楽に泳ぐ方法」においては、「疲労度」と「そこそこの速さ」との兼ね合いとして良い部分である。
したがって、前項までの要件を加味するならば、次のようなプルが、らくであり、効率的であると考える。

(i)プルする手の平及び前腕が、水流の方向に対して直角に近い形を保っていられる臍付近まで直線的にプルし、
(ii)その後は効率中心の揚抗力を利用して、薬指を先行させて水上に斜めに抜き去り、
(iii)そのままブーメランのように弧を描いて頭の前まで持ってきて、
(iv)そこで、若干止めて、身体を前のめり気味に滑るに任せ、速力が落ちてきたら、
(v)自然に前方深みに突き込んで、なるべく水流の抵抗を受けないように、楽に伸ばす。

このプルの動きは、まさしく、鉤腕泳法のプルそのものである。
鉤腕泳法の名称の由来は、前方に突きこんだ腕の形にあるが、これは、水底の中央線に沿って真っ直ぐ前腕を進行方向に向けるようにするものだ。この形は、ローリング角が小さい時には、軽く前腕が外転するが、無理のないごく自然な形である。(i)では、肘の高さと手首の高さは同じか、肘が低い。つまり、ローエルボーと言って良いが、ローリングを大きく取るにつれて、自然にハイエルボーとなっていく。要は、肘の高さが問題になるのではなく、しっかりしたキャッチを行い高い抗力を得たプルができているかだけが重要なのである。

「そこそこの速さ」の調整は、上記(iv)で、頭の先で、若干止める時間の調整で行う。ここで、ゆっくり慣性で進むに任せる場合には、ローリング角を大きくとり、真横まで向く。
当然、ローリング角を大きく取るようにすれば、ゆっくりとした泳速になる。横まで向けば、筆者の場合、25mを10ストローク、35秒くらいで泳ぐことになる。このピッチの調整が、いくらでも効くのが鉤腕泳法だ。
円月泳法でも同様ではあるが、円月で円く差し出す両腕が縦長に伸びていれば問題ないが、楕円から円へと肘を曲げる角度が大きくなれば、その分抵抗は大きくなる。

S字プルも、上記の要件をいくつか欠いてはいるが、ひとつの解ではあると思う。これが楽な人は、迷わずS字にすれば良い。しかし、S字プルというのは、プル全体が外、内、外のスカルで成り立っている。これは、腕の内転から入って、外転し、再び内転して抜いていくという難しいもので、身体の姿勢も、歪んだり反ったりする人も多く見かける。そして、ストロークも多くなりがちである。プルの軌跡が長く、揚抗力の効率も良い泳法であるとは思うが、例えば、これから健康のために始めるという還暦スイマーに対して、わざわざ、このような難しい選択を奨める気にはなれない。

以上、「楽に泳ぐ方法」について述べてきたが、ここでの筆者の結論は、鉤腕泳法であり、円月泳法であった。
この両者については、どちらも、泳速を上げようとするならば、腕を前方に限りなく伸ばし、ローリング角も最小限に留めていく必要があるのだが、そうすると、円月泳法も鉤腕泳法も、同じような姿勢に収斂されていく。
その理想の形は、現代のトップスイマーの形に近似していく。もちろん、肩関節の柔軟性や筋力などに雲泥の差があるので理想でしかない。
要するに、「速く泳ぐため」の姿勢は、身体の資質に特異な特徴がなければ(誰でも肩関節を柔軟にできるわけではないといったこと)、その要件を満たす方法は、かなり一意に決まっていく傾向があるのだと思う。
そして、その反面、「楽に泳ぐ方法」については、個性に応じた実現の方法が、個性の数ほど多くあるだろうということだ。
それらの、選択肢として、筆者の考案した鉤腕、円月、招き猫、八の字などの泳法が参考になれば幸いである。

以上のとおり、これまでは、自由形を前提に書いてきたが、他の泳法においても基本的な要件は変わるものではない。それぞれについても、同様に検討してみる価値がありそうだ。

ともあれ、速く泳ぐためには、重心を上下左右にブレないようにして、真っ直ぐ進めることが重要である。しかし、より楽に、より面白くという観点を加えるならば、選択肢はもっと大胆に広がっていく。
「そこそこ速く」というのが、25mを25〜30秒程度で良いのだとすれば、やぎロールやイルカ泳ぎも同程度の速さである。
一度試してみられたらどうか。「こんな泳ぎがあっていいの?」というほど楽しくなること請け合いである。

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