やぎさんのオリジナル泳法のすすめ

楽に、静かに、できれば速く、還暦すぎてのラクラク健康スイミング (円月泳法、鉤腕泳法、八の字泳法、招き猫泳法、らくらく2ビート背泳、やぎロール、イルカ泳ぎ等)

54. 「らくらくスイミング」から「そこそこスイミング」への脱皮 その2

このブログの内容を、体系的にまとめて、次のウェブサイトで公開している。

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第2章 推進力を強化する

この章では、腕の形状及び動作とその推進原理を中心にまとめる。
いかなる泳法でも、見た目の動きは異なるものの、共通原理は同じであるが、とくにクロールや背泳においては、推進力の6~9割は、腕によって生み出されているといわれる。事実、私の場合は2ビートでもあり、キックをしない場合の推進力は、1~2割、落ちるだけである。
加えて、キックの効果は、それが全部、推進力になるというわけではなく、ローリングやうねりなどの、姿勢を制御するための補助の意味が大きいということに留意する必要がある。
なお、この章では、推進力増加の方法として体力増進を論じることはしない。

用語定義

まず、説明に入る前に、方向等の誤解を避けるため、これから使う次の用語を定義しておく。

《上・下》泳ぐ姿勢においては、天井方向を「上」、水底方向を「下」とする。但し、立った姿勢、又は、地上においては、それぞれ、天、及び、地の方向とする。

《前・後》泳ぐ姿勢においては、推進軸において進む方向を「前」、来し方を「後」とする。但し、立った姿勢、又は、地上においては、それぞれ、胸、及び、背の垂直方向とする。

《右・左》身体の向きに拘わらず、上半身の右方向を「右」、左方向を「左」とする。

《内旋》前腕(肘から手首までの部分)を内旋させるとは、右であれば右手を反時計回りに旋回し、左であれば左手を時計回りに旋回する。いわゆる、雑巾絞りをする方向に内側に回すことである。上腕(肘から肩までの部分)あるいは肩を内旋させるとは、上腕あるいは肩について、右は反時計回りに、左は時計回りに旋回することである。

《推進軸》最も抵抗の少ない水平の流線型の姿勢をとったときに、頭から足先を結ぶ線とする。ローリングは、これを軸として行なわれる。

《万歳の方向》立った姿勢で万歳するときに両腕を左右の斜め上方に挙手するが、そのとき、最も楽に挙げられる方向をいう。泳ぐ姿勢においては、このとき、腋窩が歪むことなく自然に凹み、腋窩の両縁をなす大胸筋、及び、広背筋が均等に緩んでいる状態であることに留意する。これが腕に最も力を入れやすい位置である。


1.腕による推進方法とその原理

腕の動きを説明するときに、ストロークとか、プル、スカル、プッシュなど、いろいろな呼び方がある。もちろん、それぞれ視点や動きが違っての用語であろうが、ここでそれらの違いを云々するのは意味がないと思う。しかし、定義なしにこれらの用語を使うのも認識の相違を生じさせる虞がある。そこで、このまとめでは、腕の動きを、独自に定義しながら進めていくこととしたい。

それらの名称はともかくとして、腕による推進原理は単純である。

まず、腕による推進機能として着目するのは、手の平と前腕である。上腕は、水の抵抗を利用するには、あまり価値がない。

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前腕と手の平の面積

重要なことは、前腕にて生じる推力は、手の平のそれより大きいということであり、使い方によっては、2倍にもなる。それゆえ、水泳スクールなどで、クロールでは「前腕を立てろ」と言われる。ここでは、そんな肩や肘が壊れそうな無理は言わないが、前腕を活用すること自体は必須であるということを、強調しておきたい。

問題は、この手の先から肘までの部分をどう使うかである。
とはいえ、推進に使う手の平と前腕の動きは、単純に言えば、抗力中心で泳ぐか、揚力も利用するかの2つしかない。

a.推進軸の後方に手の平を向け、後方に真っ直ぐ動かす(抗力中心)
b.推進軸の後方に手の平を向けて動かしつつ、同時に手を横に滑らせる(揚力も利用)

実際に泳ぐときには、その他の要素もたくさんある。推進軸に対する手の平の角度や、特にb.に特有の、推進軸からずらす方向とその角度がある。その他にも、手の平の形状、こめる力の大きさ、スピードの違いなどがあるが、おいおい説明していこう。

さて、説明するにあたり、a.b.2つの動作に、便宜上、名前をつけなければ煩瑣である。
ここでは、それぞれ、その動かしかたの特徴から、《匍匐(ほふく)プル》《薙(な)ぎりストロークとしたいと思っている。

 

(1)匍匐プル
まず、a.であるが、この動きは、通常、推進軸に手の平を直角にして受ける抵抗を最大にするが、その時受ける抵抗力が推進の力そのものとなる。それゆえ、最大の力を発揮できる。
一般には、これを「抗力泳ぎ」、「I字泳ぎ」「ストレートプル」などと言っているようである。しかし、私には、どれもしっくり来ない。真っ直ぐであれば、何でもいいじゃないかと思われたら困るからである。なぜならば、この動作が効果的に力を発するのは、一定の条件、範囲があるからである。
それは、最も、腕の力が入れやすい状態、すなわち、頭から臍までの動きに使用することが最善である。

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匍匐プルの有効な範囲と使い方


具体的には、腕を万歳の方向におき、肘を直角に曲げた状態で、額の前下方で、手首を前腕の延長上に固定する。手の平を後方正面に向けて、水をキャッチした後、前腕全体で押さえるようにし、這う(crawl)というか、引きずる(drag)というか、身体全体で前腕を乗り越えるような気持ちで、手の平から前腕を推進軸と直角に固定して、そのまま真っ直ぐ臍まで引き下ろす。このときの手の平は、力を抜き、お椀の形で、指の間は少しなら空いていてよい。(右図)当然、これは、泳速より速いスピードで動かさなければ意味がない。
私は、この動作でこの範囲に限ったものを、《匍匐プル》と名づけておこうと思う。「匍匐前進」で「引く」ときの腕の動作と範囲だからである。

 

(2)薙ぎりストローク
次に、b.である。この動作は、手の平と前腕で、水を薙ぎるように、仮想的な水の斜面上を滑らせるもので、これによって、揚力が発生し、抗力とこれの合力が推進力となるものである。艪やプロペラなどの推進方法と同じ機序である。身近な例では、金槌で楔の頭を叩いて石や丸太を容易に割ることなど。これは、楔が食い込むときに、叩く力よりも、横に押す力がはるかに大きくなるという理屈による。

この方法を適切に利用すると、手を動かして加えた力よりも大きな力が推進力として得られるため、匍匐プルと較べて、効率が良い。

誤解のないように言っておくが、匍匐プルより速くなると述べているわけではない。加える方向は異なるが、仮に、同じ力を与えたときに、「匍匐プル」より推進効率が良いと述べているのである。当然、同じ速度を得たいと思うなら、速く回さなければならなくなる。
では、どういう場合に使うことが推奨されるかというと、「匍匐プル」の動作の範囲外すべてである。つまり、腕の力が入りにくい場所、すなわち、推進軸でいうと、頭より前、及び、臍より後ろである。
そこでは、水を薙ぐように切る。

例として、クロールで説明しよう。頭より前の場合は、推進方向前方の万歳の方向に伸びきった右腕を、匍匐プルの初動位置である顔の前まで運んでくる動作である。真っ直ぐであった前腕で水を掻きこむように肘を直角まで曲げる。このとき、水は、相対的に、手の平上を、親指から小指へと流れる。内側へのスカルである。
臍より後ろの場合は、臍まで到達した手の平を。腋を開けながら、回転させるように水面に向けて払う。このとき、水は、相対的に、手の平上を、小指から親指へと流れる
手の平は、前腕の位置に拘わらず、後方に向けることが基本であるが、必要に応じて、上下左右に、若干傾ける。その傾きにより、揚力の向きが変わるので、推進力や上下への姿勢の制御などを行うことが出来る。なお、この動作での手の平の形は、浅いお椀形で指を閉じる。翼と同じだ。
この動きは、より速いスピードで泳いでも、効果的な推力を得続けることができる。性質上、水のキャッチは考慮しない。
この動作を、《薙ぎりストローク》と命名しておく。

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円月泳法は薙ぎりの連続

 

(3)前腕の重要性、手の平の形

前腕の面積は手の平のそれと匹敵するか、それ以上である。したがって、これを効果的に使えるか否かが、推進に大きくかかわる。
前腕部の推力に対する寄与を手の平のそれと比較評価すると、その合力の大きさは、薙ぎりストロークにおいては、手の平のみの場合の約3~4倍が、匍匐プル時においも、手の平のみの場合の2倍程度が期待される。
それゆえ、無理に肘を立てなくとも、前項で述べた性質を理解し、なるべく前腕を推進軸と直角に保って動かせば良いのではないかと考える。
そのとき、手の平についても、前述したように、匍匐プルでは、軽いお椀形に保ち、薙ぎりストロークにおいてもお椀形にして指は閉じるようにするのが良い。

 

 

2.全泳法に共通する基本的な腕の動き

水中での腕の動きは、全泳法に極めて類似した共通点がある。しかし、腕のリカバリについては、それぞれ大きく異なる。
それゆえ、ここでは、まず、水中での腕の動きに注目しよう。

(1)リカバリーの最後に腕を入水し、加速して突きこむが、その目標となる位置は万歳の方向とする。したがって、意識的には、肩より外へ、外へと伸ばすことを推奨する。
(2)最も深い位置まで身体の重心が沈んだとき、手の平を薄いお椀形にし、指を閉じて推進軸の後方に向ける。
(3)手の平を頭の前下方の位置まで、肘が直角に曲がるまで、内側に薙ぎりストロークする。このとき、手の平は若干内側に傾ける(右であれば時計回り)。
(4)匍匐プルに入る。
(5)臍まで前腕が達したら、外側に向けた薙ぎりストロークに入り、前腕の力を抜きつつ腋を開けつつ、肘を回すようにリカバリーに入る。

以上の動きは、4泳法について、ほぼ同じである。クロールとバタフライは全く同じである。後は違うのではと思われる向きもあろうが、考え方は同じである。
背泳は、身体の後ろで掻いているひとがいるが、これでは力が入らないばかりか、肩を傷めてしまう虞さえある。薙ぎりストロークの動きで、肘を曲げ、深く沈んだ手を水面まで導き、完全に身体の前面に持ってきてから、横向きから仰向けにロールしながら腕相撲のように匍匐プルを行い、最後は尻の斜め下方に向けて薙ぎるのである。
平泳についても、考え方は同様であるが、ルールの規定があるので(5)は行わず、両肘を合わせてリカバリーに入る。

3.リカバリーの原則

推進力強化と直接関係のないリカバリーであるが、推進を邪魔しないっことにおいては見逃せない要素である。
姿勢を水平に保つためには、下肢を浮かせることが不可欠である。そのために前方に重心を移動しておく必要があるので、できるだけ早い段階で肩より前方に前腕を運ぶ。前腕は力を抜き休ませておく。
クロールについては、可能な限り早く肘を頭上に運ぶこととし、その他については、できるだけ早く、迅速に、前方に運ぶ。
そのためには、腰を通過したら、腕の力を抜いて、後方に跳ね上げることなく、しずかに腕を水から引き抜くことが肝要である。

4.キックの動作

らくらくスイミングでもそうであったが、「そこそこスイミング」でも、キックに余り重点を置かない。
なぜなら、推進力の大部分は腕が供給すること、ばらけた下肢は渦巻きを発生させ抵抗を生むからである。
それゆえ、ここでは、できるだけ、人魚のように足は癒着したようにぴったり付け流線型を保つ時間を長く取って欲しい。そのうえで、下肢を浮かせる必要、ローリングを助ける必要が発生したときに限り、骨盤の前傾後傾を伴って短時間でしなやかに小さく打つのが好ましい。

5.うねりの原理

これは、身体の下降と上昇の連鎖的な動きだ。これによって、身体の体幹で上下に水をなぎり、水を後ろに押し、前の水を引き込むことによって泳ぎを加速する。単に、体をひらひら、くねくねさせても、これがなければ抵抗が増すだけで、邪魔にしかならない。

バタフライ・平泳など左右対称な泳ぎにおいては、この動きが明瞭である。この動きは、骨盤を前後に連続的に倒す動きによって滑らかに実現できる。緩やかなサインカーブを描く水中の大きなパイプを想像しつつ、その中を潜っていく感じだ。先導するのは頭であり、その向きをコントロールするのは、胸の動きである。すなわち、沈む過程の後半では胸を張り、浮き上がりの後半では胸も背中も弛緩させる。「そこそこスイミング」では、基本的に、身体全体が反る状態はつくらない。翼の断面のような形が基本であり、かるくうねることによって、浅い波形を後方に伝達する。

動きが左右非対称な泳ぎ、すなわち、クロールや背泳では、少し解りにくい。
これらの泳ぎでの浮き沈みは、上体のローリングによって実現される。これらの泳ぎでは、必ず、上体はローリングする。その大きさはともかくとして、上体のローリングが最も大きいときが、上体の重心が最も下がろうとしているときであり、上体が水平になったときに重心が最も上がっていく力が浮力として働く。このとき、推進の道しるべとなるのは頭の位置や方向であり、胸の張りや背中の弛緩がうねりを手助けする。
したがって、この上下の動きは、1ストロークで1周期となる忙しいものである。


長くなったが、以上が、推進力を強化するための技術向上を図る要点である。

次回は、揚力と抗力についてもう少し説明を加え、その後、各泳法についての、最終的な個別まとめをする予定にしている。

 

次に記事を読む 55. 抗力中心か、揚力利用か?

 

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