やぎさんのオリジナル泳法のすすめ

楽に、静かに、できれば速く、還暦すぎてのラクラク健康スイミング (円月泳法、鉤腕泳法、八の字泳法、招き猫泳法、らくらく2ビート背泳、やぎロール、イルカ泳ぎ等)

14. 泳ぎの基礎理論

 このブログの内容を、体系的にまとめて、次のウェブサイトで公開している。

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泳ぎを研究するからには、基礎的な理論を一応押さえておこう。

物理学的な理論は学校でならったことだが、応用の一つとして、実際に泳ぐときにどのような物理的な力が身体に及ぶのか、基本的なことを確認しておこう。

1. 水の抵抗は、断面積に比例する。

 泳ぐ進行方向に向かって、腕や胸などを大きく出せば、それだけ水の抵抗を受ける。また、逆に、水を後方に押すときに面積を広げて押せば効率的だ。これらは、分かりきったことだが、この抵抗は面積に比例する。

だからこそ、抵抗のない流線型を目指すのだ。それには、身体を真っ直ぐ水面と平行に保ち、肩や腕などの水流の当たる部分を小さくすることが望ましい。だが、その抵抗の、速度との関係が重要となってくる。

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2. 水の抵抗は、速度の二乗に比例する

泳ぐとき、前方からの水の抵抗を受けるが、その大きさは、速度の二乗に比例する。

これは、このブログで紹介する泳法において、重視したい点だ。

ただ浮かんでいるだけでは、何の抵抗も受けないが、泳ぎ始めれば、水流の抵抗を受け始め、その力は速度の二乗に比例するのである。だから、泳ぐときに前方から受ける水の抵抗は、仮に2倍の速さで泳ぐと、4倍になる。

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それゆえ、速く泳ぐためには、二乗で利いてくる抵抗に打ち勝つ力を生み出すよう頑張らなければならない。そして、極力、姿勢を流線型にして抵抗を減らす努力を更にしていかなければならない。

だから、トップスイマー達は、思い切り前後に伸びて、伸びた腕でプルするための形をハイエルボーという形で関節に負荷をかけざるを得ないことになり、また、泳速と同じ速度でプルしても水の中で手が止まっているのと同じであって全く推進力にはならないから、泳速があがるにつれて、一層激しく漕がねばならなくなるのだ。

私などは、オリンピック選手の半分以下の速度で泳いでいるのだから、荒っぽい言い方ではあるが、私が受ける抵抗は、彼らのそれに比べて、4分の1以下で済んでいるということだ。

3. 造波抵抗

あまり重要な話ではないが、水面に起こす波によって抵抗が生まれる。したがって、できるだけ、波を立てず、静かに泳ぐことが望まれる。

一番この抵抗がない状態というのは、いうまでもなく潜っている状態だ。それゆえ、競泳のルールでは、潜水して進んでよい距離を制限もしている。もちろん、潜水を続けたら息が続かなくなって疲労してしまうので、適当な息継ぎが必要だ。

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造波抵抗に限って、一般的に言えることは、リカバーする時の腕は水面の上に出さなければ大きな抵抗を受けるが、それ以外は、水面下に置いた方がよいということである。

もちろん、トップスイマーは違う。頭が水上に出ているのを良く見かけるが、これは、総合的なもので、正面からの大きな水の抵抗を少なくするためであったり、高速のために上体が水面に押し上げられたりもするのだから、単純に我々の泳ぎの参考にすることはできない。

私は、造波抵抗もさることながら、フィットネスジムで泳いでいることで、お隣りの泳者への気兼ねもあることもあり、波しぶきは立てず、静かに、優雅に泳ぎたいと思っている。

4. 水圧/浮力について

水の重さは1ccで1グラム。水深10mのところでは、水圧により1気圧増える。単純計算でいくと、通常泳ぐ30cm前後の深さでは、そこでの気圧は、水面より、3%前後増えることになる。

それゆえ、泳げば、肺呼吸に対する負荷もたかくなり、苦しくもなるが、反面、呼吸循環機能の向上に資することになって健康増進になるといわれる。しかし、それだけではなく、その他の利点もあるのだ。

身体が水を押しのける体積の中身が水より軽いほど、浮きやすくなるが、身体の中でこれを調節できるのは「肺」しかない。だから、これを調節して、大きく空気で膨らませば、身体を水より軽くし水面まで浮かすことができる。そして、息継ぎの直前まで、あまり息を吐かないほうが、身体を浮かすためには効果的である。

ところで、身体の重心は、おそらく腹のあたりにある。そうすると、肺が膨らむことで、単純には浮力の中心が身体の前半により移動するので、シーソーのように、下肢が沈む。だから、その分、身体の重心を前の方に持ってこなければ身体が水平にならない。そうでなくても、通常は、下肢の方が重く、じっとしていると下肢が沈んでいく傾向があるだろう。

それゆえ、バタ足等で下肢を浮かせるよう努力する人が多い。

しかし、恒常的に重心をもっと前に移動する方が、バタ足などで動的にバランスをとるよりは、黙っても水平にバランスがとれるだけラクで効果的であろう。実際、そのような方法はある。

まず、両腕をなるべく前方に持ってくる時間を長くとること。次に、肋骨を高く上げてその中に胃をしまうようにすることだ。

息を吸うときに、その度に身体の一部を膨らませるのはしんどい。水圧があるからだ。しかし、ずっと肋骨を上げていれば、息継ぎは腹式呼吸で楽にできる。そして、肋骨を上げていることにより、内臓や胸郭が前方に移動し体重の中心を前に移動したままにすることができる。そして、水圧が助けてくれるからこそ、これがラクにできるのだ。肋骨を上げるのは、慣れるまでは少し苦労かもしれないが、間もなく習慣になる。

重心が浮力の中心と同じかそれより前にくれば、下肢は必ず浮く。

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そうすれば、バタ足などのキックをしなくてもラクに泳げるようになる。さらに、頭を少し持ち上げると、その分、下肢を浮かせる効果が生じる。少し、造波抵抗を受けることにはなるが、そこそこの速さでは気にすることでもない。

5. 渦巻き抵抗 と揚力

泳ぐときに、前方から抵抗を受けるが、身体の形状によりその後方には渦巻きができる。これは、身体を後ろに引っ張る力として、負の作用を受ける。

したがって、流線型は前方だけでなく、身体の線や尻尾の方にでこぼこしたところをなくし、足先もすっきりすぼめることが重要である。2ビートでは、キックを打つのは一瞬間だ。だから、常時足先をすぼめて尖らせておくこともできるはずである。

泳ぐときの推進は、主に腕でプルを行うが、水を引く(押す、撫でる?)ときもこの抵抗は同じである。

推進するためには、泳速以上に速く手を掻かなければならない。その差が手に抵抗として感じる力であり、推進するのに役に立つ抗力を生む。

直線的に引く場合の推進力は、手で水を押す力の反作用としての抗力と、手の後ろ側に発生する渦巻き力によって生まれる。

次に、直線的に引くのではなく、斜めや流れに垂直にプルする場合はどうか?

ここで、水流に対して斜めになった手の平を想定してみよう。

実験的に、右腕を目の前に真っ直ぐ伸ばし、手の平を左に傾けてみよう。今、左から右に水が流れているとしよう。すると、手の甲側に渦流が生まれ、甲側の間隙が減圧される結果、これは、手を上方(水流の垂直方向)に引き上げようとする力が働く。そして、手の平に直接当る水流は、圧力として手を右方に押す力と、垂直上方に持ち上げる力となる。この2つの上方への力をまとめて「揚力」といっている。

手を斜めや横に引く場合は、この揚力を利用するのである。

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6. 漕いで泳ぐ推進力

推進するために、腕を掻いたり足を蹴ったりする。これは、以上で説明した水の抗力や揚力などを利用するものである。前項では、手が静止して水が動いている状況を想定したが。泳ぐ場合は、手足を動かして、相対的に水流を造ることになる。

(1)腕のプルの場合、後方に向かって真っ直ぐ水を引く場合は、前項でも説明したが、押された水の反作用(抗力という)と渦巻き力の引っ張り力によって身体を前に進めている。クロールのストレートプルや特に最後のプッシュなどがその例である。

(2)また、進行方向に直角方向に動かして揚力で推進することもできる。この例は、平泳ぎのプルや、バタフライのスカル、バタ足等を挙げておこう。(だからこそ、足首が柔軟でなければ、バタ足で進まないのだ!)

このような動きは、道具や機械でいえば、(1)は外輪船や手漕ぎボートのオールが近く、(2)は、艪、スクリューなどがこれに相当する。

では、実際にプールで泳ぐ時の漕ぐ動作が、どのように働いているのか?

かなり、いろいろな要素が絡み合っているので、複雑であるが、ここでは、単純な想定をしてみよう。

一定の速度Vで泳ぐ場合を想定し、推進は、前腕も大事だが、ここでは、手のひらだけを考えることにすると、右図のようになる。

プルの方向を進行方向より角度δだけずらし、手のひらの角度を進行方向に対しθとした場合、揚力Lと抗力Dが図のように発生し、推力Tが結果的に生成される。

抗力Dと揚力Lの割合は、手のひらの相対流入速度との成す角αと、手のひらの形状等に左右される。例えば、αを30度とし、手のひらの小指方向から水を切っている場合は、実験的に、2:3くらいの比率が期待される。

疲れても、最速を求める場合には、直線的にプルするのが良いだろう。しかし、推進効率を高くし、省エネで泳ぎたいという場合には、プルの角度を考え て、泳ぐことだ。しかし、前腕の働きも考慮に入れる必要も有り、細かい話は、別途考察することとして、ここでは、割愛することにしよう。

ひとつ、らくらく泳法には、あまり関係ないが、速く泳ぐ場合の注意として、プルの開始から急激に動かすと、空回りしてしまう可能性があるので、徐々 に加速しながらプルすることが重要である。しかし、このことよりも、初動の時の一旦腕の力を抜いて、水の塊を捉えるキャッチという動作を入れることのほう が、はるかに重要である。また、この要素を入れると、数値的な考察はかなり難しくもなる。

参考までに、泳ぐときの抗力と揚力の関係を図にしてみた。簡略にするために、静止した水中の動きとした。左は直線プル。中と右は、水を薙ぐようにしたストロークの場合である。

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簡略化のために、静止した水中を想定している。



7. 重力/浮力を利用した推進力

腕や筋力を使って、前に漕ぐ推進は上記したとおりであるが、その他に、身体の回転(ローリング)や身体の上下動(ピッチング)も利用できる。

ローリングについては、次回の記事で詳しく述べたいが、呼吸やリカバリーを楽に行うためには、多かれ少なかれ行わなければならないが、もっと積極的に活用することもできる。

つまり、身体全体をローリングさせることによって、艪やスクリューのような働きをさせ、これに四肢の形状や動きを加えて、揚力や抗力による推力を得るのである。例としては、やぎロールがある。

ピッチングも有用である。身体の下降上昇、うねりを利用して大きな推進力を得るために利用される。例としては、バタフライや平泳ぎがあるが、私のオリジナルでは、やぎロールやピッチングしながらの円月泳法などに応用している。

どのような泳ぎにしても、まずは、水の抵抗を受けないような姿勢をつくることが大事であり、抵抗を受ける姿勢を造るときには、それが総合的に推進に寄与するための力になるために意図して行うのでなければならない。

 

【泳ぎ理論考察】 

 

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