11. らくらくクロール その3 鉤腕泳法
このブログの内容を、体系的にまとめて、次のウェブサイトで公開している。
またまた、オリジナル泳法の紹介である。
今度の泳ぎは、肩の故障や、様々な理由から、腕があまり上まであがらない場合にお奨めだ。腕を前方に出すことを全く要求していないからだ。
その他、身体のストリームラインを真っ直ぐにできない人にも一度試みてほしい。丸太のように、真っ直ぐな姿勢を保てるようになると思う。
ともあれ、こんなラクな泳ぎはないので、一度は試してみて欲しい。
基本の腕の形から、
十手泳法あるいは鉤腕泳法
とでも名づけよう。
これは、クロールであるが、これまで、説明してきた泳ぎの基本を踏襲した上で理解して欲しい。
私が紹介しているオリジナル泳法は、すべて、肩を頭上に持ち上げるのが、あまり得意でない人向けだ。それは、私自身、腕を肩より上にあげると非常に疲れるし、往々にして泳ぎ始めに右肩の三角筋が重くなることから、自分自身ようにと開発したものだからである。
十手泳法は、その中でも、特に肩まわりに負担をかけないものだ。私も、肩が重くなると、この形で泳ぐ。
私の泳法は、すべて動きが単純であるが、これも非常に、単純であるが、形は結構特異かもしれない。
1. 特徴
特徴は、水中に潜行する、鉤型に直角に曲げた腕の形にある。
円月泳法は、円を基本としたが、この泳ぎでは、腕は直角だし、やや直線的である。
泳ぐときの基本形は、次のとおり。
これは、グライドしているときの一番長い時間をとる姿勢だ。仮に、左腕がリカバーしてきた状況を想定して説明する。
(1) 身体全体を進行方向に伸ばして、できるだけ左真横に向ける(左コースロープに対面する)。つまり、90度ローリングしている。これは、ゆっくり泳ぐことや、ストローク数を少なくすることを意図している。
(2) 右の肘を鈎型に直角に曲げ、前腕をプール底の中央線に合わせる。このとき、右の二の腕は真っ直ぐプールの底を向いている。すなわち、体幹と二の腕は直角、肘も直角、指先が進行方向を真っ直ぐ指しているということになる。右腕の前腕は外旋しきっていることになるが、この姿勢が少しでも苦しい場合は、ローリング角度を浅くする。ただし、その場合でも、常に前腕は水底の中央線にぴたっと合わせること。ここで、前方からの水流を受ける腕の部分は、二の腕だけであり、前腕はまったく前からの水圧を受けない。(他に、頭頂、肩は水流による水圧を受ける。)
この真下に垂らした鉤型の腕は、あたかも、ディンギー(ヨット)における、安定板であるセンターボードの役割のようである。
(2) 水上にある反対側の左腕は、サメのポーズのように腋を大きく開け、肘から先をリラックスさせて、頭上に敬礼のごとく構え、手先は右腕の指先を狙っている。ローリングが90度であれば、身体全体は、一枚板、つまり平面上にある。
(3) 両足は、ぴったり揃えて、真っ直ぐ伸ばす。
1. 身体の動き
それでは、基本形からの動きを開始しよう。
今、上述した写真の基本形のとおり、右腕が十手のように鈎型に立てられ中央線に位置づけられており、左腕が水面にあるとしよう。
泳速が緩み始め、身体がまわり始めるときが動作の起点だ。この時点を狙って、一瞬、身体を緩める。すると、鈎型にして真っ直ぐ前方を指していた右前腕の力は緩められて内側に倒れる(前腕の中心あたりを中心として内旋する)。すると、手の甲と前腕に水流を感じる。キャッチである。同時に、その抵抗により、身体が倒れこみ、ローリングが始まる。
水上にあった左腕は、既に水上にあることを保持できなくなって、水中に突き込む瞬間を迎える。ここからの以下の動作は、これから、全て、同時に一瞬に行われる。
1. 水上の左腕の突き込み
他の泳法では、リカバーした腕を前方に突き込むのだが、ここでは、頭上前方に保持した左腕を、何と、真下の中央線に向かって前腕をピタッと合わせるように外旋してねじり込むのだ。
その間、その左腕の肘はずっと鈎型を保持している。(なぜなら、この泳法は、腕を前方に出したくないために編み出されたのだ。)なお、基本形で述べたように、身体のローリングの最大角が90度より小さくても、前腕は常に中央線上にぴたっと保持されなければならない。観点を変えれば、上腕が胸となす角度が180度以下であっても、頭と前腕と中央線は常に同一面上に一致させておくということである。ローリング角が小さければ小さいほど、グライドの時間は減ってピッチがあがるであろう。
2. プルからリカバーまで
中央線上にある右腕は、プルを行う。
一旦緩められ(内旋し回転し)て斜めに水流を受けている右手の甲や前腕は、プールの底と平行になっているはずだ。上腕つまり二の腕がプール底に向かって直角に立っているからである。ハイエルボーに対して、これは、ローエルボーになるが、これほど極端なローエルボーは、他にはあるまい。でも、しっかり、水をキャッチできていることを確かめてほしい。
さて、そこに、左腕の前腕を水底の中央線に合わせようと内旋しながら突き込んでいくと、右手は、自然に臍まで一気に下ろされるはずだ。そこからは、右手の甲に減圧を感じるように水を切りながら肘を曲げたまま水面に抜き、頭部横で敬礼の姿勢で止める。
この右手の動きをもっと具体的に書くと、次のようである。
左腕の前腕が水底目がけて突き込まれてくると、右手の指先をその内旋してくる左腕の前腕の内側をその肘までなぞりながら、腕相撲のごとく真っ直ぐに臍まで肩甲骨ごと腋を閉めつつ下ろして、あとは、惰性で今度は腋を開けながらゆっくり腕を円形に振り抜き、指先を水面に這わせながら(要するにリラックスして)リカバーし、最後は頭部横で敬礼の姿勢で止める(サメのポーズに近い)。この「止める」時は、その反動で、若干前のめりになって、上体は真横になったまま潜行を始め、下肢はかなり浮く感じを持つはずだ。
3. キック
キックは、2ビートである。
打つ瞬間は、プルや突き込みと全て同時である。この場合は、右で打ち、ロールするのを助け、プル時に腹圧をかけることにも寄与する。プルのタイミングは、事実上うつ伏せに近くなったときである。
もちろん、キックはしなくでも問題なく泳げるので、キックの強弱や有無の違いを試してほしい。キックなしの場合は、基本原則どおり、肋骨を上に上げておくほうが下肢の浮きがよい。
4. 利点/欠点
腕を鈎型になんて、そんなことをしたら、二の腕が、まともに水流の圧力をくってしまう!?
多分、そんな声がすぐ聞こえてきそうだ。でも、それで構わないのである。この泳ぎでは不可避だ。
どのような泳ぎでも、進む限り、前方からの水圧を受けるのは当たり前だ。前方に斜めに腕を突き出す泳ぎの場合は、腕の進行面全体にその角度に応じた水圧を受ける。要は、できるだけ水圧を全面から受けない姿勢を作ることが必要なのだ。そして受けざるを得ない水圧ならば、逆利用してそれを役立たせる、ということが基本原則である。
その点、この泳法では、身体を潜水艦や、丸太のように真っ直ぐ保つことが、何の苦労もなく、自然にできる。むしろ、曲げるほうが難しい。
下の写真が、正面から見た姿勢だ。
多くの泳法では腕を頭の上方に伸ばすが、とかく、身体が歪みやすい。身体が反ったり、ねじれたり、頭が倒れたり起きたりすることがよくある。そうすると、無駄な水の抵抗を受けることになる。
しかるに、前方に腕を伸ばさない十手泳法で、水圧を受けるのは、二の腕だけだ。頭や肩への水圧は多少の差はあれ、どの泳法でも受ける。二の腕への水圧など、さしたることではない上に、その抵抗は、下肢を浮かせるモーメントとして役立っているのだ。
だから、この泳法の要は、鉤型なのだ。前腕の抵抗を無くすことだ。そして、二の腕を、肩より上に持ち上げようとする動作をやめて、肩まわりへの負荷を軽減することにある。実際、プルの一瞬のほかは、常に基本形でグライドしているが、その間、身体のすみずみまで脱力している。
5. 泳ぎの効率
肩まわりは、非常にラクである。
それなのに、泳速は他のらくらくクロールと比べてそれほど遜色はない。
ちなみに、私の泳ぐ場合は、
25mを壁を蹴らずに、16ストローク、30〜35秒
程度であり、ゆったり泳げば、11ストロークまで減る。また、プルに力を込めれば、25秒は出る。
先行する鉤腕は、頭より先に出る部分は手先くらいであるのに、プルは非常に効率的だ。腕相撲の形から円形にゆっくり水面に抜き去る動作に無駄がなく、実に滑らかなのだ。それゆえ、こんなラクな泳ぎ方はない。
おそらく、片側で息継ぎをする人が多いと思うが、その場合、息継ぎをしない側では、前方に沈み込んで行き、息継ぎをする側で浮き上がってくるようにすると、非常に息継ぎがラクになる。イルカの様に。また、その方が、メリハリも出てくるし、楽しい。
6. 変化形
その1 さらにラクに
十手泳法では、1ストローク毎に反転するよりも、片側で2ストロークのプルを連続したほうが、もっとラクで、おそらく、その方が速い。
完全に180度の反転をするのは、結構、大きな動きなので、中途半端にならないように、片腕で2回連続してプルするのである。また、そのほうが、左右で息継ぎをすることにもなろだろうから、左右平均的な動きができる利点もある。
さて、さらにであるが、この十手泳法には、ドルフィンの相性が良いのである。2ビートの代わりにドルフィンキックをする、そして反転する時には、回転しやすくするために、下側の足を強く蹴るのだ。
さらに、さらに、反転するときには沈み込み、2回目のストロークのときには浮き上がりつつ息継ぎを行う。これは加速要素になるし、息継ぎが格段に楽になる。
お解りだろうか?こうなると、やぎロールの一種なのである。ここまでくると、とても楽しい上に、左右のバランスもとれ、本当にラクである。この泳ぎは、一番のお奨めである。
変化型 その2
前記した変化形は一旦置いて、別の変化形も一応紹介しておこう。
この泳法のプルの形は若干直線的であるが、腕の基本を円月にとることには、何の差し障りもない。
この場合でも、一旦十手のように腕を鈎型にする。手のひらの位置は常に円月の軌跡をたどるが、円の頂点に戻った瞬間、その前腕を水底の中央線に合わせることになる。すなわち、円を時計の文字盤になぞらえて説明すれば、リカバーして、指先がてっぺんの12時の点に戻る瞬間にその腕の肘を内側に押し込み、素早く時計の中心まで持ってきて、十二時を指す針の形をとるのである。
その場合は、リカバーの腕を敬礼の形で止める十手泳法とは、かなり形が異なってくるので、命名も変えたほうがよいかもしれない。例えば、「十五夜子の刻肩らくクロール」「拝み円月泳法」とでも....(^o^)\
ともあれ、個々人の肩の調子や状態によって、少しずつ変化が必要となるだろうし、この泳ぎでなければならないということは元よりない。
十手にすれば、肩がラクに、でも結構、遜色なく泳げますよ、という意味で、一例を紹介したまでのことである。
上下の腕を前方に少しでも余計に出すことができれば、もっと速くなるであろうし、下肢の浮力も増す。そもそも、そうすることができるのであれば、この十手で泳ぐ理由もないので、円月やクワガタ、あるいは、TIで泳げばよいかもしれない。
しかし、肩の問題に関わらず、この泳ぎはとてもリラックスできるし、そこそこ速いので、一度試してみられてはいかがか。
次回、また、他の泳法も紹介しよう。
- 02. クロール編
- 03. らくらくクロール その1 円月泳法のすすめ(お奨め!)
- 10. 円月泳法はなぜラクなのか
- 04. らくらくクロール その2 クワガタ泳法、 基本原則のまとめ
- 11. らくらくクロール その3 鉤腕泳法(お奨め!)(この記事)
- 12. らくらくクロール その4 下段突き泳法
- 13. らくらくクロール その5 万歳泳法
- 19. らくらくクロール その6 招き猫泳法(お奨め!)
- 21. らくらくクロール その7 (記事削除)
- 22. らくらくクロール その8 八の字泳法(お奨め!)
- 34. クロールを自分に最適化する その1(グライドとキャッチ)(お奨め!)
- 35. クロールを自分に最適化する その2(速やかな左右転換)(お奨め!)
- 38~42. 楽に、より早く
- 49~50. 速く泳ぎたいけれど
- 58. 「そこそこスイミング」の4泳法への適用(クロール編)