10. 円月泳法はなぜラクなのか
このブログの内容を、体系的にまとめて、次のウェブサイトで公開している。
記事「03. らくらくクロール その1 円月泳法のすすめ」で紹介した円月泳法がなぜラクなのか、ここで少し考えてみた。
当面考えられる要素は、3つありそうだ。
1. 動きが簡素で、滑らかなこと
2. 水を効率よく押し出すこと
3. 身体のバランスをとりやすいこと
以上、とりあえず3つあげてみたが、以下に展開してみよう。
1.動きが簡素で、滑らか
円月泳法の腕の動きは、紹介したとおり円である。しかも、手の返しもなく、単純に、そのまま円く回す。これ以上、簡単かつわかりやすい動きはないと思う。
しかるに、一般にクロールで教えられる動きはどうであるか?
私は、クラスに入ったことも、教本をちゃんと読んだこともないのだが、よく言われていることは、手のひらを外旋して、できるだけ、遠くに手を伸ばし、一瞬ゆるめて、水をキャッチし、できればハイエルボーで、ストレートあるいはS字にプルし、脇を開けて内旋しながら、もしくは、最後に大腿までプッシュし、リカバーする等ということではないだろうか。
いずれにしても、難しいし、疲れる動きのように思う。
その点、円月泳法では、単に回すだけで、直線的な動きはない。腕の内旋や外旋もない。いや、水面に腕を抜くときに、大きく水をとらえたい場合は若干内旋するが、意識するようなことではなく、勢いにのって惰性で元の位置に戻るのである。
そもそも、クロールとは、「這う」という意味であり、匍匐前進する場合の腕の動きはおそらく同じような動きになるはずで、一番、力が有効に入る動きなのだと思う。
でも効果的に水を押すには、一般的な泳ぎにするのがいいんじゃないの?
と思われる方は多いだろう。しかし、そうだろうか?
2. 水を効率よく押し出す
円月泳法の基本形は、軽く両腕を前方上方にバランスボールのような大きいものをふんわり抱えて持ち上げている姿勢だ。
泳ぐ時には、この両腕が形作る円弧の中は、当然、水で満たされている。では、円月泳法で、この姿勢から泳ぎ始めてみよう。
まず、右手の腕で円を描き始める場合、右の手の甲は、左の掌をなぞり、続いて前腕の内側をなぞったあと、左腕の腋窩を掬って水面に腕を抜きはなって、惰性で元の頭上まで戻すことになる。この右手の軌跡は円だ。三角や四角にせず、できるだけ、円く回す。
動作が始まる時点は、ローリングで身体が下面を向いた時だ。そして、左のキックを入れて腹圧がかかるのは、左腕の腋を通ったときだ。
さて、この一連の動きの中で、水をどのようにキャッチしているかを考えてみると?
最初の腕を回し始める時点では、身体はおそらく45度くらいにローリングし切っているから、肘は、殆ど前方の斜め水底の方向に向かって沈んでいることになるだろう。
えっ、そんなことあっていいの?普通の泳法では、ハイエルボーを期待されている場合なのに、円月泳法では身体の一番低い位置で沈んでいるなんて!
しかし、ハイエルボーが期待されているのはキャッチだ。つまり、水の抵抗を程よく前腕の外側で受けて水の塊を腕のまわりに纏わりつかせるわけだが、円月泳法でもこの時ちゃんとできているのである。肘は沈んでいても、そこから前方上方水面に向けて伸びる前腕は手の甲までのラインでちゃんとキャッチ出来ている。
しかも、さらに、両腕の円弧と顔面の間に大きな水の塊がキャッチされてもいるのである。そして、右手が、円弧を描く動作に入ると、この水塊を逃がさないように、左腕にそって、水をうまく下方に押出すのである。そして、さらに、ローリングが進んで、右手を腋から水面に抜き去る動作では、水の塊は水面に向かって押し出されるが、行き場を失い水流の方向を後方に変える。こうして、この過程で、水は効率よく後ろに押し出されているのだ。
つまり、身体の回転と同期して、腕は大きなスクリューの羽根のような役割を果たしているといえるだろう。そして、この動きは、滑らかな円弧の動きにより、力むことなく行うことができ、また、ゆっくりとした動きでも、水を捉えて効果的に後ろに送り出すことができるのである。
より具体的には、艪やスクリューのような働きをし、揚力を得ているのであるが、このとき、押している水というのは、前方に半弓に構えた腕や頭や首の凹凸による負圧でできる渦巻き、及び、胸や腹などの体表にまつわる粘性抵抗によって水流の速度が低下した水であり、すでに受けた抵抗を取り返して効率的に泳いでいるといえる。このことについては、まだ別の記事として書くことにする。
一般の泳ぎでは、前腕を立てるのに苦労し、一本のオールをいかに速く押し下げるかにかかっているが、円月泳法では、らくに、小さな力で、そこそこの泳速を出すことができるのである。もちろん、競泳を目指す方には適さないが、らくにゆっくり、でもそこそこに泳速をコントロールしながら泳ぎたい人には、この泳法はピッタリだと思う。
ただ、ひとつ難がある。それは、リカバリの腕だ。この泳法で実はリカバリという概念は私にはない。円弧を描いているからである。したがって、戻る過程では、横の水面上を大きく腕が払うことになるのだ。一人で1コースを占有できている場合は何の問題もないが、対向して泳ぐ人がいれば、すれ違う時、また、隣のコースにも気を遣わなければならない。
気のつかいかたにもいろいろあるが、泳速やテンポをコントロールするのもひとつだが、惰性で振り回す円弧をそのときだけやめて、人の邪魔にならないようにすることになるだろう。例えば、TIでいうジッパーのように、前腕をだらりと下げて、指先が水面をはうように戻すことでもよい。しかし、そんなことをしてみればよく分かるが、円の動きをやめると、余計な力が要ったり、リズムや気がそがれるのに気がつくだろう。
しつこく確認するが、円月泳法では、腕は掻かない。単に回すのだ。
それほどに、この円の動きは自然で、水との親和性がよく、気持ちがよいものなのだ。これに、2ビートのキックを入れて腹圧をポン、ポンと入れていくと、とてもリズム感もあり、水面を跳ねている感じも楽しめる。
3. 身体のバランスをとりやすい
前項でも示したが、円弧を描くプルの軌跡は、結果的に身体の軸にそったストレートプルになっている。このため、まっすぐ、身体を引っ張ることになり、身体が捩れることがない。そのため、キックは特に必要というわけでもなく、キックなしで泳ぐことはいともたやすいし、足に負担をかけなくて済んでいる。とはいえ、リズム感をもって気持ちよく泳ぐためには、ぜひ2ビートをお奨めする。
2ビートは、内股キックでもよいし、深い散歩するようなキックでもよい。
円月のプルは、安定性が良い。それゆえ、キックの方法に制約がない。また、上体の姿勢についても、上体を起こすこともできるし、水平に伏せることもできるし、そのとりかたは自在なのだ。
さらに、姿勢の制御に関してだが、円月泳法の基本形が、両腕を円くして掲げた姿勢であることを述べたが、この時、手の甲を水流に対して微妙に調節することによって姿勢全体を制御することが可能になっていることも重要な点である。
以上は、左右の姿勢制御が主であったが、前後のバランスについても触れておこう。
これまで、下肢を浮かせるためには、両腕を前に出す時間を多くとることと、肋骨を高くあげることの重要性を述べてきた。もちろん、これは、この泳法でも変わらない原則だが、呼吸が苦しかったり、なれない場合は、それほど、頑張らなくても、この泳法では十分ラクに泳げる。その違いは、下肢が下がり気味かどうかということに現れてはくるのだが、泳速に若干影響が出こそすれ、ラクに優雅に泳ぐことはできる。原則をきっちり守れば、より軽快に、よりイルカになった気分になれるということだ。
総じて言えば、円月泳法は、競泳には向かないかもしれないが、長くゆったりと泳ぐには適しているといえるだろう。
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